憲法 平成30年 予備試験 論文 再現
第1 訴えの法律上の争訟性について
法律上の争訟とは、当事者間の具体的な法律関係又は権利義務関係に関する争いであって、法律の適用によって終局的に解決できるものをいう(裁判所法3条1項)。
本問では、陳謝の懲罰と除名の懲罰の取消しの訴えであるから、これにあたる。したがって、法律上の争訟性は認められる。
もっとも、部分社会の法理から司法審査の対象とならないのではないか。思うに、部分社会の構成員の人権保障の見地から、一般市民法秩序に関するものである場合には、部分社会でも司法審査の対象となると解する。
本問では、処分1は、陳謝の懲罰であり、一般市民法秩序に関するものではないから、司法審査の対象とはならない。
処分2は、除名の懲罰という議員の地位そのものを失うことから、一般市民法秩序に関するものといえ、司法審査の対象となる。
第2 Xの憲法上の主張
1 19条違反について
Xは、処分1が19条に反して違憲であると主張することが考えられる。
まず、自己の意に反して陳謝文を朗読させられない自由は、思想及び良心の自由として19条により保障される。なぜなら、善悪の判断も思想及び良心の自由に含まれるからである。
次に、懲罰によってかかる朗読を強制されていることから、前述の自由が制約されている。
では、かかる制約は、公共の福祉の範囲内か違憲審査基準が問題となる(13条後段)。
まず、思想及び良心の自由は、人格の核となるものであるから重要な権利である。また、懲罰によって陳謝文の朗読を強制されており、制約は重大である。そこで、目的が必要不可欠で、手段が必要最小限かという厳格な審査基準を用いるべきであると解する。
本問では、目的は、Dの名誉の回復であるから、目的は必要不可欠といえる。
では手段はどうか。この点、Dの名誉の回復のためには、戒告というより緩やかな手段もあることから、手段は必要最小限とはいえない。
以上から、処分1は19条に反し違憲である。
2 21条違反について
X は、処分2が21条に反し違憲であると主張することが考えられる。
まず、議員としての活動の自由は、政治活動の自由として「表現の自由」に含まれ、21条1項で保障される。
次に、Xは除名の懲罰を科されていることから、かかる自由が制約されている。
では、かかる制約は公共の福祉の範囲内か違憲審査基準が問題となる。
まず、政治活動の自由は、民主政の過程に参加する自己統治の価値を有する重要な権利である。
また、 X は除名の懲罰を科されており、議員の地位そのものを失っていることから、制約は重大である。
そこで、目的が必要不可欠で、手段が必要最小限かという厳格な審査基準を用いるべきであると解する。
本問では、目的は、議会の名誉の回復・神聖の確保といえ、目的は必要不可欠といえる。
では、手段はどうか。この点、議会の名誉の回復・神聖の確保のためには、出席停止というより緩やかな手段があることから、手段は必要最小限とはいえない。
以上より、処分2は、21条1項に反し違憲である。
第3 反論
1 19条違反について
A市は、陳謝文は「思想及び良心」にあたらない。あたるとしても、Dの名誉を回復させる必要性から、違憲審査基準に合理性の基準(目的が正当で、手段に合理的関連性があるか)を用いて、処分1は合憲であると反論することが考えられる。
2 21条1項違反について
A市は、議会に対する侮辱を回復して、議会の神聖を確保する必要性から、違憲審査基準に合理性の基準を用いて、処分2は合憲であると反論することが考えられる。
第4 私見
1 19条違反について
対立点は、陳謝文は「思想及び良心」にあたるか。あたるとして、違憲審査基準は何かである。
まず、「思想及び良心の自由」とは、世界観、人生観等人格形成の核となるものをいうから、善悪の判断は「思想及び良心の自由」に含まれない。したがって、陳謝文は「思想及び良心の自由」に含まれない。
以上から処分1は、19条に反せず合憲である。
2 21条1項違反について
対立点は違憲審査基準である。
まず、政治活動の自由は、自己統治とともに,、表現活動を通じて人格形成に資する自己実現の価値を有する重要な人権である。また、除名によって、議員の地位そのものが失われていることから、制約は重大である。そこで、厳格な審査基準を用いるべきである。
本問では、目的は、議会の名誉を回復し、議会の神聖を確保するものであるから、必要不可欠である。
では、手段はどうか。この点、議会の神聖を確保するためには、出席停止の処分を科して反省を促すことも可能であり、より緩やかな手段があるといえるから、手段は必要最小限とはいえない。
以上から、処分2は、21条1項に反し違憲である。
以上
評価:B